12万年前の喜界島サンゴ礁段丘にて 今夏12万年ぶりの?地球の暑さを思う

全国各地, 記録破りの猛暑が続いています. ようやくお盆も過ぎて, 秋の気配が待ち遠しい中

3ヵ月先までの気象予測では, まだ残暑が続きそうです.

子どものころ, プールに海や山への旅行, 待ち遠しく楽しみだった夏.

それが世界中で豪雨や山火事など自然災害の多発する, これほど過酷で憂鬱な季節になろうとは . . .

WMO (世界気象機関)は, 今年7月の世界平均気温が観測史上最高だったことを公表し, 国連のグテーレス事務総長は「温暖化は終わり, 地球沸騰化時代が到来した」と警鐘を鳴らしました(※1).

この観測史上最高の暑さを「12万年ぶり」と表現する研究者たちがいます.

古気候学で一つの重要な時期, キーワードとなる「12万年前」.

長い地球生命史のうちで人類の躍進する第四紀は, 約10万年周期で氷期―間氷期サイクルを繰り返しており(※2), これが氷床や堆積物コアといった地質年縞試料によく記録されています.

そのうち最も現在に近い, 最終間氷期(高緯度の氷床が縮小する温暖期)が12万年前に当たります.

間氷期の時期には, 温暖化で氷床が融解し, 地球規模で海面が上昇する結果, 海岸線が内陸側に進出(海進)して地形を変化させます. 沿岸の浅瀬には土砂が堆積し浪が削って平坦な面をつくり, のちに再び氷期が訪れ海面が低下したり隆起すると, 陸化し低地となります. この氷期―間氷期を繰り返すと, 階段状の段丘地形ができるのですが, サンゴ礁域で同じことが起きると, 間氷期の浅瀬にサンゴ礁が広がり, それが氷期に離水(陸地化)してサンゴ礁段丘となるのです.

鹿児島県 奄美の喜界島は, 世界的にも有名なサンゴ礁段丘です.

島の最高地点 百之台は標高 210mで真っ平な台地(段丘の最上段)です. ここが一番古く約12-10万年前のサンゴ礁だった証拠に, サンゴ石灰岩が見つかります. 以下 8万年前, 6万年前, 4万年前のサンゴ礁が階段状に段丘を形成しており, 最下層には島を縁取る完新世(7500年前以降)の隆起サンゴ礁が6段にも分かれ, そして海の中に現代のサンゴ礁が続きます.

この夏, 喜界島を久しぶりに訪れました.

百之台に上って島を眺め, 12万年前の温暖期に思いを馳せました.

現在は同じ間氷期ですが, その上 人為起源の温暖化が類を見ない速度で進行して底上げし, 海の中のサンゴ礁生態系にも大きなダメージを与えています.

地球沸騰化時代― 今後10年間の人類の行動により, 地球が不可逆的な温暖化に突き進むか, 瀬戸際で回避するかが決まる分岐点になる, と言われます(※1). 私たちが気候変化の現実を直視し, 行動を起こして社会が変わる最後のチャンスを逃さないようにしたいと感じます.

喜界島 百之台,  12万年前のサンゴ礁段丘上から現在のサンゴ礁を望む 筆者撮影 (2023年8月)

中村修子

※1  2023年7月の世界の平均気温は, 1991-2023の7月の平均より0.72℃高く, 1850-1900の7月の平均より1.5℃ 高い観測記録となった

国連広報センター https://blog.unic.or.jp/entry/2023/08/25/103926

※2  正確には惑星軌道要素(公転軌道の離心率, 地軸の傾き, 歳差運動)の周期変化により, 北半球高緯度での日射分布が変わり, 氷床が拡大・縮小して氷期と間氷期が形成されると考えられています(ミランコビッチ仮説)