白亜紀末 小天体衝突の現場/中村 修子

私はこの10年間, 地球と生命の歴史を学生に話しています。
40億年の生命史の中でも特に大きく有名なイベントとして, 6550万年前 白亜紀末の恐竜絶滅を招いた小天体衝突事件があります。幸運にも年明けに, その衝突現場の大変貴重な試料を専門家からお借りして, 授業で展示することができました。

宇宙起源の隕石衝突の物的証拠は, 白亜紀-第三紀の境界地層中に, 普通では地表面に見られないイリジウムという重元素(宇宙由来物質に多い)が高濃度で濃集すること,
高温で溶けた岩石が急冷してできるテクタイト(ガラス粒子), 大きな力で結晶の軸がずれた衝撃石英などが見られることです。
その衝撃石英の破片の大きさ(粒径)の分布を頼りに, 研究者たちは衝突現場をつきとめ, ついにメキシコ ユカタン半島の地下に直径180 km のクレーターを発見!
そのクレーター内部の堆積物が, お借りした試料です(写真)。
衝撃の高温で溶融した地球の岩石と, 隕石との混合物だと聞いています。

直径約10 km の小天体衝突時のエネルギーの大きさは, 地震のマグニチュード 11(東日本大震災M9地震1000個分)に相当するそうです。
隕石は海に落下し, 発生した津波の高さは 300 m, 3日間にわたり10時間周期で6回襲来したという調査結果があります。落下した付近の地質が炭酸塩・硫酸塩堆積層であったために, それらが蒸発して硫酸の雨を降らし, 石灰質の殻をもつ植物プランクトンが溶けて絶滅しています。この植物プランクトンは食物連鎖の底辺をなし,海洋生態系に大打撃を与えたことが示唆されます。

このチチュルブクレーターの試料は, 初期の国際陸上科学掘削計画(International Continental Scientific Drilling Program; ICDP)での成果です。

J-DESCの陸上掘削ページ:
https://j-desc.org/icdp-2/

チチュルブ・クレーター掘削計画:
https://www.icdp-online.org/projects/by-continent/the-americas/central-america/csdp-mexico
https://www.icdp-online.org/projects/by-continent/the-americas/central-america/csdp2-mexico

約3 cm、 東京大学 後藤和久教授 提供