科学記事を書くとき/大西光代

私はサイエンスライターをしています。
科学記事を書くとき、一番気を付けているのは科学としての正確さと人間の物語のバランスです。
研究者たちは仮説を立て、検証し、証拠を積み上げていきます。
当然のようにその過程には緻密さと複雑さがあります。
私は、そこをできるだけ誠実に書きながら、読者が理解することをあきらめずに“まだ知らないこと”を待てるような構成を探ることに、時間をかけています。

最近『日経サイエンス』で赤潮のオリジナル記事を執筆したときは、「科学の現場での人間ドラマ」として伝えようと工夫しました。
史上最大の被害を出した道東沖の赤潮には、その1年前にロシア・カムチャツカで起きた異変の前兆がありました。
そのふたつをつなぐ“線”を追いかける科学者たちの姿には、どこかSF小説のようなスケールがありました。
また、大きな漁業被害の現場で原因究明に挑む姿には、純化された人間の善性のようなものが見えるようにも感じました。
それを多くの人に伝えたいと思いました。

私は「海の女性ネットワーク」の一員でもありますが、取材を通じて、海に関わる多様な専門家たちの協働のかたちに、改めて勇気をもらいました。

科学は孤独ではなく、つながりの中にある——そのこともまた、記事を通して伝わればと願っています。
自分の書いた記事だから読んで欲しいという気持ちはもちろんありますが、海に関わる人たちのことを知って欲しいという思いがまずあります。

多くの方に読んでいただいて、海をそして海の研究をより身近に感じて欲しいと思っています。